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それは誰のため?2

キョーコ

丸め込まれた感じのまま、言われたように敦賀さんの部屋にやって来た。

だるま屋の大将と女将さんには泊まり込みの仕事だと嘘をついて。

私何やってるんだろう……

家主のいない部屋でため息をついた。

かすかに鞄の中で携帯が震える音が聞こえた。

「もしもし、最上ですけど」

「キョーコ?今どこ?」

敦賀さんは『お父さん』の演技に入っていて、自然に私の名前を呼ぶ。

それはわかっていたのに、呼び捨てにされて、私の心臓がドキッとしてしまう。

特別な意味があるわけじゃないのに、変な私。

自分に笑ってしまった。

「もう敦賀さんのお部屋ですよ」

「キョーコ?そんな他人行儀な言い方はないんじゃないの?」

どうでも娘役をやらないといけないらしい。

電話の向こうに聞こえないように1つため息をついてからこんな時、娘なら『お父さん』に言いそうな言葉を頭の中で探して告げた。

「ちゃんといい子でお留守番してるから、お仕事頑張ってね、お父さん」

「なるべく早く帰るから、いい子で待っててね」

そういって電話が切れた。

『お父さん』になりきってる敦賀さんと、『娘』に戸惑ってる私。

役者としての差が浮き彫りになって、ますますため息が出る。

こんなことばかり考えてると暗くなってしまう。

頭をふってこんなこと考えないように身体を動かしてしまえばいいと思い、帰りが遅くなる敦賀さんに夜食でも作っておこうと、冷蔵庫を覗いて買い出しに出かけた。





「ただいま」

笑顔で告げられて、自然と返事が出来た。

「おかえりなさい」

こんな何気ないやりとりだったけど、胸の中がちょっぴり暖かくなった。

「いいにおいがする」

リビングに入るなり、敦賀さんがそう言った。

食に興味が薄い敦賀さんに、いいにおいと言われてなんだか嬉しかった。

「お夜食を作ってみたんですよ。召し上がりますか?」

敦賀さんに問いかけたら、ため息をつかれた。

「敦賀さん?どうされました?」

「キョーコ?今は『父』と『娘』なんだから、そんな後輩みたいな態度とらないで?」

ダメ出しもらっちゃった?

「でも……」

「キョーコがどうしても俺を『お父さん』だなんて思えないって言うなら、恋人同士みたいに仲がいい『父』と『娘』ならどう?それなら無理に『お父さん』って思わなくても、自然にふるまえない?」

確かに『お父さん』ってよりは『恋人』の方が年齢的に受け入れやすいけど、実際恋人なんていない私には自然なふるまいがわからなかった。

俯いてしまった私の頬に手を添えて、敦賀さんが優しく言った。

「いつかはキョーコも恋愛がからんだ演技を要求されるかもしれない。その時の為にも演技の練習しておいた方がよくないかな?」

『見たことないからわかりません、あげくの果てにはできませんとプロにあるまじきセリフを恥ずかしげもなく口にするのか』

敦賀さんの言葉に重なって、かつて先生に言われた言葉が頭の中に蘇った。

『娘』としてでも『恋人』としてでも、敦賀さんが演技をつけてくれてると思えばいいんだ。

せっかくのチャンスなんだから、十分生かさないといけないと思った。

それが誕生日プレゼントをくれたマリアちゃんと敦賀さんへのお礼にもなると思った。

「ごめんなさい。お父さんのように上手くやれるかどうかわからないけど、頑張ってみます」

敦賀さんの目を見てはっきり告げると、敦賀さんは優しく微笑んでくれた。

「キョーコ?『お父さん』に敬語はいらないんだよ?」

つまり敬語を使うなってことかしら?

「わかったわ、お父さん。それよりお夜食食べるでしょ?早く着替えてきて」

着替えを済ませた敦賀さんの前に夜食を置いても、敦賀さんはすぐに食べようとはしなかった。

何か嫌いなものでもあったのかと心配になった。

「お父さん、どうしたの?もしかしてお腹すいてなかった?だったら無理に食べても軽井沢の二の舞になるといけないから、こんな時間だし、食べなくてもいいのよ?」

私の言葉に、敦賀さんは一瞬キョトンとしていた。

やだ、今の顔可愛い。

男の人に可愛いだなんて失礼かしら。

思っただけだから、敦賀さんにはわからないわよね?

「キョーコは食べないの?」

名前を呼ばれてうろたえてしまった。

私の馬鹿!

変にうろたえたら、何か変なこと考えてましたなんていってるようなものよね。

1つ息をついて自分を落ち着かせてから言った。

「もうこんな時間だし、今から食べると太っちゃうじゃない」

敦賀さんは一人分しか置かれてないから食べるのを戸惑ってたんだと思った。

「じゃあ、せっかくキョーコが考えてくれてたんだし、食べさせてもらおうかな」

楽しそうに告げられて、唖然とした。

「私が何考えてたって言うんですか!」

咄嗟に『娘』としての演技を忘れて叫んでしまった。

「え?違うの?キョーコがあんまりうろたえるから、『はい、あ~んして』って食べさせてあげようかな~とか考えてくれてるんだと思ったのに」

敦賀さんはニッコリと笑って言った。

「そんなことする親子なんて聞いたことがありません!」

「キョーコはそうかもしれないけど、俺はやってたよ?」

真面目な顔で敦賀さんに告げられると、自分が知らないだけのような気がしてきた。

どこの家庭でも『はい、あ~ん』なんて当たり前のようにあることなの?

考えてたら、目の前にスプーンを出されて、咄嗟に口を開けてしまった。

我にかえって敦賀さんを見たら、敦賀さんがニッコリ笑っていた。

「キョーコが恥ずかしがってしてくれないから、俺が食べさせてあげるね」

自分が敦賀さんに、正しく『はい、あ~ん』の状況で敦賀さんに用意した夜食を食べさせてもらっていて、顔から火が出るかと思うぐらい火照ってしまった。

いや~馬鹿、馬鹿、私の馬鹿~

恥ずかしくなってテーブルに突っ伏したら、敦賀さんは何事もなかったかのように夜食を口にしていた……

「美味しいよ、キョーコ」

その時になって初めて気づいた。

もしかして、スプーンそのまま?

慌てて敦賀さんを見たら、優雅にスプーンを口に運んだところだった。

いや~間接キス!

「つ、敦賀さん、スプーンかえましょ?ね?」

敦賀さんの右手に取りすがって言ったら、呆れたように笑われた。

「今更だよ?もう食べ終わったし」

空になったお皿を見て、頭の中は『間接キス』という言葉が渦巻いて、居たたまれなかった。

動揺している私を見かねたのか、敦賀さんが言った。

「親子なんだから、そんなに気にしなくていいんじゃない?」

私が気にしすぎるだけなの?

「それと、別にキョーコを家政婦にしようと思って、家に来いって言ったわけじゃないんだよ?」

お夜食作ったのは迷惑だったのかしら?

少し心配になった。

「キョーコが俺のためを思って作ってくれたのは嬉しいけど、無理しなくていいんだよ?」

こんな時、娘ならなんて言うのかしら。

少し考えて口を開いた。

「だって、『お父さん』は私が見張ってないとちゃんと食事をとらないじゃない?だから一緒にいる時ぐらいは『お父さん』がちゃんと食事してるところを見て安心したいのよ。お父さんは迷惑なの?」

「迷惑なんかじゃないよ。その気持ちは嬉しいよ」

そう言って敦賀さんが笑ってくれてホントに嬉しかった。

1へ   つづく

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