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それは誰のため?5

キョーコ

「ねぇ、お父さん、しりとりしない?」

敦賀さんが、寛いでTVを見ているようだったので、今なら邪魔にならないかと思って聞いてみた。

「急にどうしたの?」

敦賀さんは、不思議そうにしていた。

「社さんから『お父さん』もお父さんとしりとりしたって話を聞いて、急にしてみたくなったの」

敦賀さんは少し考える素振りをして、ニッコリと笑った。

「じゃあ、しりとりする?」

やっと『娘』らしく出来そうで嬉しくなって頷いたら、敦賀さんは自分の膝を叩きながら笑っていた。

どうしたのかしら?

「キョーコの座るところは、そこじゃなくて、こっちね」

もしかして…敦賀さんの言う『こっち』って膝の上ってこと?

硬直してたら、腕を掴まれて引っぱられ、私はあっという間に敦賀さんの膝の上に座らされてしまった。

すぐに降りようとしたのに、敦賀さんにしっかり抱きしめられて動けなかった。

「放して下さい~」

ジタバタしてみても、敦賀さんの腕が緩むことはなかった。

「キョーコ?『お父さん』に遊んで欲しい時は、抱きついておねだりするのがルールなんだよ?」

「そんな話は知りません!」

お膝だっこなんて恥ずかしい体勢で、『娘』の演技なんてどこかに行ってしまっていた。

「キョーコがルールを知らないようだから、教えてあげてるのに」

『教えてあげてる』という一言が、私の抵抗を奪った。

「ホントにそんなルールあるんですか?」

探るように敦賀さんを見つめたら、悠然としていた。

「俺の家はそうだったよ?どこも似たようなものじゃない?」

敦賀さんの言葉に、かすかに記憶をかすめるものがあった。

どこで似たような光景を見たような気がして、考え込んだ。

そうだ!モー子さんのお家だ。

モー子さんに遊んで欲しい弟さんや妹さんが、モー子さんに駆け寄って抱きついてたっけ……

つまり、あんな感じ?

でも、あれを私が敦賀さんにしないといけないの?

チラリと横目で敦賀さんを見たら、視線が合って、敦賀さんがニッコリと笑った。

「キョーコは、恥ずかしくて出来ないと思うから、しりとりする間は膝の上にいようね」

そんな風に言われて、敦賀さんの膝の上に乗ったままなのを思い出した。

「やっぱり、しりとりはやらなくていいですから放して下さい~」

「せっかくキョーコが『娘』のように甘えてくれる気になったんだから、しりとりやろう?」

『娘』に甘えてもらって嬉しい『お父さん』ってこんな感じなの?

「も~いいです。ずっと膝の上にいたら重いですよね?それに恥ずかしいじゃないですか。だから放して~」

じたばたと暴れて叫びまくったら、敦賀さんは私の膝の裏に腕を入れて、なんでもないことのように立ち上がった。

急にお姫様だっこされて、驚いて声も出なかった。

敦賀さんは私をキッチンに連れて行って椅子に座らせてくれた。

「へ?」

何がはじまるのかちっともわからなくて、呆然としている私の前で、敦賀さんは優雅に紅茶を入れていた。

何をやっても様になる人だな~と見とれてしまった。

紅茶にほんの少し蜂蜜をたらして、敦賀さんは私の目の前に差し出した。

「あんな風に叫ぶと、喉を傷めるよ?」

そして大きな手で軽く頭をポンと叩いて、敦賀さんはキッチンから出て行った。

いれてもらった紅茶は文句なく美味しくて、紅茶と一緒に敦賀さんの優しさが私の中に広がって、温かくなった。

4へ   つづく

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