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それは誰のため?もちろん……前

「れ~ん」

向こうから蓮の姿を見つけて、キョーコちゃんが、嬉しそうに手を振っていた。

頬を染めて駆けよって来るキョーコちゃんに、驚いた。

チラリと横にいる蓮を見ると、俺以上に驚いているようだ。

キョーコちゃんに恋してる蓮にとったら、夢のような光景だろうな。

「ここで待ってたら、会えるんじゃないかと思ってたの」

満面の笑みで告げるキョーコちゃんに対して、俺の横では蓮が驚きすぎて固まっていた。

怪訝そうにキョーコちゃんに見つめられて、蓮がやっと口を開いた。

「何かあったの?」

「何もないと待ってちゃいけないの?」

キョーコちゃんは拗ねたようにして、上目づかいで蓮を見詰めていた。

それは俺から見てもすごく可愛らしく、金槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。

キョーコちゃんに見とれていて気付かなかったが、ふと周囲に視線を向けると、遠巻きに様子を探る人垣が出来ていた。

お二人さん、ここはよくないよ?

いや、俺はわかってるよ?

でもね、あちらの人達にはわかってないからね?

とにかく、ここはまずいって。

まだ事務所の中なのが救いだな。

キョーコちゃんも蓮も、自分達が注目を集めている事に全く気付いていなかった。

蓮は先程の衝撃から立ち直ったようで、甘やかな笑みをキョーコちゃんに向けていた。

いつもなら、手を翳して、意味不明の仕草をするキョーコちゃんが、今はすっかりなり切っているのか、蓮に負けじと幸せそうに微笑んでいた。

見つめあう二人に、事情を知らなければ、俺でも騙されたと思う。

頼むから周囲を憚ってくれ。

「あのね」

二人を移動させようと声をかけた。

「あら、社さん。こんにちは。気付かずに失礼しました」

いつものキョーコちゃんだったら有り得ない挨拶だ。

そうだよね。

今日のキョーコちゃんには蓮しか目に入ってないよね。

「いや、気にしないで。ところでキョーコちゃん」

「何ですか?」

「あのね」

「駄目だよ?キョーコ」

いきなり蓮が俺の言葉を遮った。

何が駄目なのか話が見えなかった。

「キョーコは俺だけ見てたらいいんだよ?社さんとは言え、俺の前でよそ見しないで?」

蓮、お前それ本音だろ?

そういう台詞吐くぐらいなら、さっさと告白しろ!

そしていつからシスコン兄貴という設定になったのかな?

それとも蓮はしっかり恋人気分なのか?

「もう、わかってるくせに。私はいつだって蓮しか見てないでしょ?蓮より素敵な人はいないんだから」

まさかキョーコちゃんがここまで熱演するとは、思っても見なかったよ。



  *  *  *



巷でバレンタイン商品が店先に並び出すと、あぁ、もうすぐ蓮の誕生日もやってくるんだなと思い出す。

「もうすぐお前の誕生日だな」

蓮がキョーコちゃんの誕生日にしたことを思い出し、ニヤリと笑って見せた。

俺の表情でピンときたのか、蓮は何も答えなかった。

「流石にキョーコちゃんも、今年は誕生日を間違えるなんてないだろうしな。キョーコちゃんから『お誕生日にプレゼントに、お母さんになります』なんて言われたりしてな」

「社さん……」

蓮が疲れたように俺の名前を呼んだ。

「どうする?そんな風に言われたら」

俺の言葉に、蓮がため息をついた。

「遊ばないで下さいよ。あり得ませんから」

義理がたいキョーコちゃんが、蓮の誕生日に何らかのお祝いをしないはずはないと思う。

自分が『お父さん』をもらったんだ。お返しに『お母さん』と来ても、俺はなんら不思議はないと思うのに、蓮ははっきり『あり得ない』と言う。

「なになに?キョーコちゃんの事は”俺が一番理解してる”って?流石『お父さん』だよなぁ~」

からかうつもりで、『お父さん』と言う単語を強調してみた。

「社さん?」

「俺はなぁ~おまえの過保護なお父さんがすごくしっくりきてな~いつかお前に子供が出来たら、あんなお父さんになるんだぁ~とか思うとさ、子供の頃のお前が見たくなって。キョーコちゃんに頼んだらやってくれないかなぁ~」

からかい半分でそう告げたら、瞬時に蓮の雰囲気が変わった。

「止めて下さいね。絶対!」

「……はい…」

闇の国の蓮さんに変身されて、恐怖で震えあがり、それでもなんとか声を絞り出した。

怖すぎる…

俺から視線を外した蓮の雰囲気が、急に柔らかくなって、視線の先を追いかけた。

こんな時の蓮は、まるでセンサーが付いているのかと疑いたくなる。

「あ、噂をすれば影だ。お~い、キョーコちゃ~ん」

呼んでみても返事がなかった。

何か考え込んでいるようで、俺達の方には振り向きもしなかった。

蓮に機嫌を直してもらうためにも、このまま気付かれないで終わるわけにいかなかった。

キョーコちゃんに駆けよって、声をかけた。

「キョーコちゃん?何か悩み事?」

「え?あ、社さん。こんにちは。ちょっと……」

何だか歯切れが悪い。

「俺でよかったら話を聞くよ。あ、それとも蓮の方がいいかな?なんせ『お父さん』だしねぇ~」

キョーコちゃんの誕生日で『お父さん』をやってた蓮は、期間限定だったのかもったいないぐらいのお父さんぶりだった。

最も『お父さん』なのを良いことに、馬の骨退治もやってたようだが……

「そのことなんです」

「え?もしかして蓮『お父さん』なのをいいことに、キョーコちゃんにいたずらしたの?」

あの時キョーコちゃんに、一緒に住むことを承諾させたから、怪しんではいたんだ。

「え?何の話です?」

即座に否定されて、自分の思い違いだったんだと思った。

「……社さん?」

俺の名前を呼ぶ蓮の声に、怒気が込められていた。

「え、…あ、つ、敦賀さん、こんにちは」

蓮の声に、キョーコちゃんは初めて蓮に気付いたようだった。

こんな目立つ奴が目に入らないぐらい悩んでたなんて、ある意味凄いよ、キョーコちゃん。

「えっと…失礼します」

その場から逃げるようなキョーコちゃんに、慌ててキョーコちゃんの鞄を掴んだ。

「待って、キョーコちゃん」

こいつの機嫌を直して行ってくれ~

「悩み事なら、話した方が楽になるよ?」





ラブミー部の部室に落ち着いてから、口火を切った。

「で、何に悩んでるの?」

「え…?えっと……」

視線をさまよわせるキョーコちゃんに、俺がいない方が話しやすいかと思い、立ち上がった。

「あ、俺、席外すね」

「いえ、いて下さい」

蓮の視線が見えない矢となって、俺に突き刺さった。

「キョーコ?お父さんに話せないことってないよね?」

いきなり『お父さん』に変貌した蓮に、キョーコちゃんも、俺も驚いた。

「その『お父さん』が問題なんです」

その一言に、蓮が固まった。

お前やっぱり何かしたんだな?

「最上さんは、俺の『お父さん』が嫌だったの?」

蓮が恐々とキョーコちゃんに訊ねた。

「違いますよ。私の誕生日に素敵な『お父さん』を頂いたので、どうしようかなと思って……」

「どういうこと?」

蓮だけでなく、俺にも意味がわからなかった。

「あまりご本人に言いたくなかったんですが…」

そう言って、キョーコちゃんがため息をついた。

「もうすぐ敦賀さんのお誕生日ですけど、『お父さん』のように、私に何が出来るかなと考えてたんです」

やっぱりキョーコちゃんも蓮のために考えてくれてたんだな。

自分のことのように嬉しくて、顔がにやけた。

蓮は無表情で固まっていた。

お前、少しは嬉しそうな顔しろよ!

「考えても思いつかないんです。だから……敦賀さん、欲しいものはありますか?」

「笑ってくれるだけで十分だよ」

いつかどこかで聞いたことがあるような……

キョーコちゃんが、真っ赤になっている。

蓮は、甘やかで優しい微笑みを浮かべてキョーコちゃんを見詰めていた。

この光景もいつかどこかで見たような……

「か、からかわないで下さい!し、真剣に悩んでるんですよ!」

「真面目に答えたつもりだけど?」

益々キョーコちゃんは赤くなって……

俺、なんでここにいるんだろう……

ただのお邪魔虫だし……

「敦賀さんに喜んでもらえるものをって考えてるのに…」

「うん、だから最上さんの笑顔」

お前…口説くのは俺のいないとこでやってくれ。

そっとその場を離れようとしたのに、キョーコちゃんが叫んだ。

「社さん!なんとかしてください、この人」

いつものキョーコちゃんなら仮にも先輩に『この人』なんて言わないだろうに。

かなり動揺してる?

これは……良い傾向なんだろうな。

「蓮をなんとかするなんて、俺には無理だから」

「そんな……」

「じゃ~さ~キョーコちゃん、俺から1つ提案なんだけど」

途方に暮れたようなキョーコちゃんに告げた。

「なんでしょう?」

キョーコちゃんは、首を傾げて俺の言葉を待っていた。

「蓮の誕生日に…」

「社さん!」

慌てて俺を制止しようとした蓮にチラリとみやって言った。

「『妹』をあげたら?」

蓮も、キョーコちゃんも、目を丸くしていた。

「私には兄弟はいないんですけど?」

「妹…?」

蓮とキョーコちゃんが同時に呟いた。

「ん?だって蓮がキョーコちゃんの誕生日に『お父さん』プレゼントしたじゃない?だからキョーコちゃんが蓮の誕生日に『妹』をやってあげたらどうかなっていうのが俺からの提案」

「敦賀さんは『妹』が欲しいんですか?」

キョーコちゃんは、不思議そうに蓮を見詰めていた。

キョーコちゃんに見つめられて、何故か蓮は無表情で固まっていた。

「私には兄弟がいないので、上手くやれるかはわかりませんけど…敦賀さんが、『妹』が欲しいとおっしゃるなら、頑張ってやらせて頂きますけど?」

「俺の友達がね、よく妹自慢するんだけど、かわいいんだって。兄貴に彼女が出来たら嫉妬したり、兄貴の彼女にはり合ったりしてね。話を聞いてるだけで羨ましくてね~俺にも妹がいたらそうなのかな~なんて思ってさ。ブラコンの妹なんてどう?キョーコちゃん」

「そんなことされて嬉しいものなんですか?」

疑わしげなキョーコちゃんに、思わず力説した。

「嬉しいに決まってるじゃない!『大好き』って全身で表現してる妹だよ?喜ばないやつなんていないって。『お兄ちゃん』じゃなくて名前で呼んでるから知らない人からしたら、恋人に間違われるなんて話してた顔は、ホントに妹が可愛いんだなぁって思ってね。羨ましかったんだよ」

「敦賀さんは、そういうのってどうなんです?」

「え?あ、羨ましいね。そういう妹がいる人」

俺の言葉を呆然と聞いていた蓮は、キョーコちゃんに問われて反射的に返事をしていた。

「じゃあ不肖最上キョーコ。敦賀さんの妹役謹んで拝命します」

「あのね?命令してるわけじゃないんだから、最上さんがやりたくないことしなくていいんだよ?」

「兄弟がいないので、わからないですけど、『お兄ちゃん』に甘える妹ってやってみたいと思います」

照れてるキョーコちゃんは、可愛かった。

「ありがとう」

二人の間の優しい雰囲気を大事にしてやりたくてそっと部室を出た。





「社さん、どうしてあんなことを?」

車の中で、蓮と二人だけになった時に、不意に聞かれた。

「ん?『お母さん』の方がよかったか?」

あるわけないと思いつつ、からかってみた。

「そんなこと言ってません」

「お前は違うものがよかったかもしれないけど、俺が見たかったんだよ。」

「え?」

俺の言葉に、蓮が不思議そうにしていた。

「『お父さん』に甘えられないんだったら、『お兄ちゃん』ならどうかと思ってね」

「何の話です?」

「お前、ホントは『娘』に甘えて貰えなくて凹んでただろ?だからさ~キョーコちゃんに甘えられて喜んでるお前が見られなくて残念でねぇ~」

からかわれてると思ったのかむっとして蓮は口をつぐんだ。

見たかったのはホント。

でもホントに見たいものは、先の楽しみにとっておくよ。

『お父さん』も『お兄ちゃん』も、恋愛対象でないことぐらいわかってる。

でも、『ブラコンの妹』ぐらいなら、キョーコちゃんがお前を異性として見るきっかけになるんじゃないかと思ったんだよ。



  *  *  *



あの時は、思いがけない熱演に、慌てさせられるとは思ってもみなかったな……

つづく

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