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君恋ふる30




気を失った彼女を抱き上げて、楽屋に運んだ。

松田さんにドアを開けて貰って、楽屋の中に入った。

「私、何か掛けるものを取ってきます」

そう言って、松田さんは駆けて行った。

彼女を畳みの上に寝かせようとしたら、松田さんが言い争っている声が聞こえてきた。

その声が彼女にも届いたのか、彼女がゆっくりと目を開いた。

「気がついた?」

畳敷きの淵に、そっと彼女を座らせて、自分も隣に腰掛けた。

「私、眠ってたんですか?」

どこかぼんやりと告げる彼女に、笑みがこぼれた。

「覚えてない?気を失ってたんだよ」

「どうし……あっ…」

途端に震えだした彼女をぎゅっと抱きしめた。

「もう大丈夫だから。安心して?」

優しく頭を撫でていると、上杉君が飛び込んできた。

「ちょっと彼女が落ち着くまで待ってくれるかな?」

上杉君は真っ赤になって、そっと楽屋を出て行った。

大きな物音に驚いた彼女が身体を硬直させていた。

「大丈夫だからね」

彼女は小さく頷いた。

しばらくその体勢でいると、彼女が自然と身体を預けてきた。

「落ち着いた?」

小さく頷いて、彼女が口にした。

「ごめんなさい」

少し腕の力を抜いてみたけど、彼女が逃げる素振りは無かった。

「心配するから、黙ってどこかへ行かないでね?」

「はい。ごめんなさい……」

「無事だったから、もういいよ」

彼女の手が、そっと俺の胸に添えられて、ドキッとした。

「敦賀さんの腕の中は、とっても安心出来ます」

目を閉じて、うっとりと告げられた。

「じゃあ怖くなったらいつでも言って?こうしてあげるから」

彼女が素直に頷いたので嬉しかった。

「じゃあ、待たせてるから、上杉君を呼んでくるね」

名残惜しかったけど彼女から離れて、上杉君の楽屋に行った。

「上杉君、松田さん、ご迷惑をおかけしました。キョーコちゃんも落ち着いたようなので、上杉君は彼女に話があるんだよね?」

「あいつにガツンと説教出来るのは俺だけだろ。奏江もあいつを甘やかしてそうだしな」

ほんのり頬を染めてぶっきら棒に告げる上杉君に、笑みがこぼれた。

「いつもキョーコちゃんを気にかけてくれてありがとう」

「別に。奏江に頼まれてるからな」

そんな話をしながら楽屋のドアを開けると、泣きながらハサミを手にしていた。

急に様子が変わっていて、上杉君だけじゃなく俺も驚いた。

「キョーコちゃん?」

「何やってるんだ!?」

俺は彼女の名前を呼び、上杉君は彼女に問いただそうとしていた。

「いや…消えないの……洗ったのに…」

何の事だ?

「キョーコちゃん、それは危ないから俺にくれる?」

そっと近寄って手を差し出すと、彼女は大人しくハサミを預けた。

「すみません。これ、お願いします」

ハサミを後ろにいた松田さんに預けて、彼女の顔を覗きこんだ。

「何が消えないの?」

「これ…気持ち悪い……」

目の前に出された腕に、くっきりと残っている掴まれた痕。

上杉君と松田さんの息を飲む音が聞こえた。

「大丈夫、すぐ消えるよ」

努めて優しく告げると、彼女はぼんやりと俺を見つめてきた。

「ホント…ですか?」

「信じられない?」

彼女は俺の問いに首を横に振った。

「気持ち悪いなら、消えるまではこうやっておこうね」

そう言って彼女の腕に自分のハンカチを巻き付けた。

上杉君がそっと自分のハンカチも差し出してくれたので、ありがたく使わせてもらった。

両腕に違う柄のハンカチを巻き付けると、彼女は涙の痕の残る顔で、微かに笑った。

「敦賀さん…」

彼女をイスに座らせると、小さな声で呼ばれた。

「ん?どうしたの?」

「敦賀さん…」

もう一度呼ばれて、上杉君や松田さんには聞かれたくない話でもあるのかと思って、彼女の顔に耳を寄せた。

彼女は俺の袖を掴んで、ふぇ~んと泣きだした。

「よっぽど怖かったんですね」

松田さんが震える声で呟いた。

あの時追いかけていれば、こんなに怖い思いをさせなくて済んだのに……

ごめんね、キョーコちゃん。

こぼれ落ちる涙をティッシュで拭って、松田さんが入れてくれたコーヒーを彼女に飲ませた。

彼女も少しずつ落ち着いてきて、コーヒーを飲み終えた時には、涙も止まったようだった。

「顔、洗いに行きますか?」

松田さんに問われて、彼女は素直について行った。

彼女が松田さんと楽屋を出て行ってから、ずっと黙り込んでいた上杉君が口を開いた。

「何と言われても、ガツンと言うからな」

驚いて見つめると、上杉君はふいっと顔を背けた。

多分他の誰が言うよりも口調はきついかもしれない。

それでもそれは必要な事だと思った。





「お前、そこに座れ!」

まだ赤い目をして松田さんと楽屋に戻って来た彼女に、唐突に上杉君のお説教が始まった。

「この前といい、今日といい、どうして知らない人について行くんだ!」

座れと言われて、床に直接正座して、シュンと項垂れる彼女が不憫になった。

社さんが慌てて楽屋に飛び込んできて、唖然としていた。

「お前は何度言ったらわかるんだ!知らない人について行くなと、あの時も言っただろうが!」

「ごめんなさい」

彼女は目に涙を浮かべていた。

彼女の涙目の上目遣いを直視した上杉君は、途端に真っ赤になって言葉に詰まっていた。

「キョーコちゃんも反省してるから、その辺で許してあげてくれないかな?」

やっぱり甘いと言われても、彼女が不憫で仲裁に入ってしまった。

「お前に何かあったら奏江が悲しむんだ。だから気をつけろよ!」

ぶっきら棒に叫んで、上杉君は楽屋を飛び出して行った。

松田さんも上杉君を追いかけて、楽屋を出て行った。

「敦賀さん、社さん、黙っていなくなってごめんなさい」

「次からは黙って行かないでね?」

社さんの言葉に、彼女は小さく頷いた。

「俺、今から事務所に行くから、蓮とキョーコちゃんは先に帰ってて」

「送って行きますよ」

「いや、キョーコちゃんも参ってるし、早く帰って休ませた方がいいから。キョーコちゃんも今日は夕飯を作ろうと思わないで、これで我慢してね?」

社さんが彼女に手にしたお弁当を掲げて見せて、俺に手渡すと楽屋を出て行った。

「帰ろうか?」

コクリと頷く彼女を立たせて、荷物を持った。

楽屋を出る時に彼女が震えていたので、軽く背中を叩いて促すと、ぎゅっと俺の服の裾を掴んで歩きだした。

いつもと様子の違う彼女に、戸惑った。

車に乗るまでずっと彼女は俺の服の裾を握りしめていた。

人の話し声が聞こえると震えて立ち止まる彼女に、その度に「大丈夫だから」と笑いかけて背中を軽く叩いた。

人とすれ違う時には、俺の身体に隠れるように立ちすくむ彼女に、不破への怒りがふつふつとわいてきた。

何をされたのか、こんな彼女に問いただす事は出来なかった。

いつもより、かなり時間をかけて駐車場まで歩いた。

TV局の中はかなり緊張して歩いてたんだろう。

助手席に乗りこむなり、彼女は大きく息をはいた。

車の中で彼女の話し声が聞こえないのは、付き人になって初めてのことだった。





あれこれと毎日食事を気にかけてくれる彼女が、何も食べたくないと言って入浴を済ませるとゲストルームに籠ってしまった。

彼女にかける言葉もなくて、無力な自分にため息が出た。

せっかく社さんが買ってくれたお弁当も、手をつけないままとりあえず冷蔵庫にしまいこんだ。

楽屋で目を離した間に、ハサミを握りしめていた彼女を思い出すと、安易に寝る気分にもなれなくて、コーヒーを入れてリビングのソファに座り込んだ。

台本を取り出してみても、台詞もちっとも頭に入らなかった。

仕事の疲れもあったのか、どうやらウトウトしていたようで、突然聞こえてきた泣き声に飛び起きた。

耳を澄ましてもシンと静まりかえった部屋に、空耳だったかと思ったその瞬間、すすり泣きが聞こえてきた。

ゲストルームの前で、少し躊躇ってから、遠慮がちにノックをして、ノブに手をかけた。

部屋には鍵もかけられていなかった。

それは、彼女が俺を異性として見ていない証のようで、軽く落ち込んだ。

「キョーコちゃん?」

そっと呼んでみたけど、彼女から返事はなかった。

彼女はベッドに顔を伏せて、入口に背中を向けて、床に座っていた。

「ごめんね。泣き声が聞こえたから、気になって……」

言いわけを口にして、ゲストルームに入った。

彼女は慌てて涙を拭っているようだった。

彼女の隣にしゃがみこんで、顔を覗きこんだ。

「キョーコちゃん?」

「つる…が…さん?どうして?」

「勝手に入ってごめんね。涙の理由は、俺には話せない?」

女性の寝室に無断で入りこむなんて、彼女に罵られるんじゃないかと心配したけど、彼女はそんな俺を咎めたりしなかった。

「反省していたんです」

一言呟いた彼女の目から涙がこぼれ落ちた。

右手で涙をぬぐってやると、彼女は縋るように見つめてきた。

「どうしたの?」

「ごめんなさい。社長さんに言われてたのに、敦賀さんのお食事……」

「大丈夫。この後ちゃんと食べるから。それに社長だって、キョーコちゃんがこんな時まで俺の食事の世話をしろって言うような鬼じゃないよ」

自分の願望かもしれないけど、彼女が本当に言いたかった事は違うような気がした。

それでも彼女に約束した手前、朝になっても手つかずのお弁当が残っていたら彼女も気にしてしまうだろう。

ゲストルームを出てから、水で胃に流し込むようにしてお弁当をたいらげた。

シャワーを浴びて出てきたら、リビングのソファーに凭れるようにして、彼女が床に座っていた。

「どうしたの?キョーコちゃん。眠れないの?」

俺の言葉に、彼女は頷いた。

「お腹すいてない?お弁当食べる?」

彼女は首を横に振った。

「ちょっと待っててね」

キッチンに入ってホットミルクを作って、リビングにいる彼女に出した。

「ありがとうございます」

両手でマグカップを包み込むように持って、ホットミルクに口をつけた。

「コーン…が…」

「ん?」

「コーンの魔法が…効かないんです……」

「どんな魔法をかけて欲しかったの?」

彼女は、目に涙を浮かべてじっと見つめるだけで、何も言わなかった。

29へ   つづく

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