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君恋ふる45

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仕事が終わったら、琴南さんに頼んで、彼女に会わせてもらおう。

彼女の大事な『コーン』を渡すという口実があったら、叶うはずだ。

そう思って、コーンをポケットに忍ばせていたのに……

「来ないと後悔するぜ」

そんな言葉が気になって、社長の呼び出しに従うことにした。

本当なら今頃、彼女にコーンを渡せていたのに……

早く彼女に会って、俺のもとへ帰ってきてと、懇願したかったのに……

ため息が出て仕方がない。

玄関で出迎えてくれた社長の秘書の背中越しに、マリアちゃんが何か言いたげに俺を見つめてくる。

いつもなら、俺の姿を見かけると駆け寄ってきてくれるのに、俺と目が合うと、何も言わずに踵を返して行ってしまった。

嫌われたかな……

案内してくれる社長の秘書の背後で、そっとため息をついた。

「来たか」

そう告げる社長からは、いつもより、微妙に威圧感がかもし出ていて、なんとなく説教でも始りそうな予感がする。

やっぱり今からでも、彼女に会わせてもらうように、琴南さんに頼みに行こうか……

「お前、最上君に何をした?」

唐突な質問に、面食らった。

些細な表情の変化も見逃さないぞとばかりに、社長が凝視してくる。

どうしていきなり、俺が何かしたとかいう話になるのかわからない。

彼女の望みをかなえていたら、何かはしていたところだけど……

「何もしてませんよ」

記憶が戻った時に、彼女にどう思われるかわからないのに、何が出来るっていうのか……

「最上君のことをどう思ってるんだ?」

社長の意図が分からず、ため息が出る。

「どうとは?」

「嫌っているのか?」

「そんなこと、あるわけないじゃないですか!」

反射的に叫んだ。

どうして俺が彼女を嫌っていると言うのか。

「正直に、最上君への気持ちを吐け。そしたら手を貸さないこともない」

手を貸す?

社長は、昨夜彼女が戻ってこなかったことを、知っているのか?

社長の手を借りたら、どんな大げさなことになるのか……

それに社長は、俺の気持ちなんて知っていたからこそ、彼女を俺の付き人にしたんじゃなかったのか?

「好きですよ」

誰よりも大切で、誰よりも愛しくて、こんな感情、彼女以外の誰にも持ったことがない。

「例え最上君がどんな姿になっていてもか?」

「どういうことですか!彼女に何かあったんですか?」

思わず社長に詰め寄った。

「落ち着け!誰かに危害が加えられたとかいう訳じゃねぇから」

すぐに否定されて、ホッとした。

「で?返事はまだ聞いてねぇぞ」

一体何が知りたいんだ?

「例え記憶があろうとなかろうと関係ありません。俺は彼女が好きです」

社長の目をまっすぐに見据えて言いきった。

「聞こえたか?マリア」

社長が俺の背後に呼びかけると、マリアちゃんがドアを開けて部屋に入ってきた。

さっきは一言も言葉をかけてくれなかったマリアちゃんの出現に、戸惑ってしまう。

「わかっただろう?こいつが真剣に最上君のことを思っているのが」

社長の言葉に、マリアちゃんは頷いて、俺を見つめた。

「お姉さまに会わせて差し上げます。こちらへどうぞ」

彼女は社長の家に来ていたのか?

社長が、「来ないと後悔するぜ」なんて言うはずだ。

俺が彼女に会いに行こうとしていることなんて、お見通しだったんだろう。

社長にいいように転がされてるような気がして、苦笑してしまう。

でも、彼女に会える。

そう思うだけで心が浮き立って、マリアちゃんが浮かない顔をしていることに、気づかなかった。





開かれたドアの向こうに、愛しい彼女を見つけて、急に不安になった。

俺の顔を見て、彼女は何て言うだろう。

『敦賀さんなんて嫌いです』とか、『もう一緒にいたくありません』なんて言われたら、どうすればいいだろう。

ソファに深く腰掛けた彼女は、宙を見つめていて、俺に気づいていない。

「キョーコちゃん?」

恐る恐る呼びかけてみても、返事はなかった。

不意にさっきの社長の言葉を思い出した。

彼女は、まるで人形のように、ピクリとも動かなかった。

「お姉さまは……心を閉ざしてしまわれたの……」

ゆっくりと近づいてきたマリアちゃんが、説明してくれた。

「今朝、モー子さんが目覚めた時は、もうこんな状態になってたんですって。連絡を受けてすぐに駆けつけて、家へ連れてきましたの。モー子さんも一生懸命お姉さまに呼びかけてらっしゃったわ。なのに……お姉さまには届かないの……」

「最上君は、心を閉ざすほどに、何かひどく辛いことがあったんだろう。お前は何もしちゃいないという。それなら最上君に、何があったんだろうな」

泣きだしたマリアちゃんに代わって、社長が説明してくれた。

心を閉ざすほどに辛いこと?

俺が彼女の望みを叶えなかったから?

俺がここまで彼女を追い詰めたのか?

「こんなお姉さまは見たくなかったのに……蓮様どうして?どうしてお姉さまがこんなことに……」

俺が彼女の望み通りにしていたら、こんなことにはならなかったのか?

「琴南さんは何て?」

「『キョーコはずっと泣いていたのに……寝たふりなんかしないで話を聞いてあげればよかった』と言って自分を責めて、食事も取らずにずっと最上君に付き添ってな。ひどく取りみだしてたから、一服盛って眠らせた。」

淡々と告げられた言葉が、心に突き刺さった。

「キョーコちゃん」

彼女の隣に腰掛けて、そっと呼びかけてみたけど反応はなかった。

ごめんね。

キョーコちゃんがこれほどに、思い煩っているなんて、考えもしてなかったよ。

「キョーコちゃん、俺の声聞こえてる?」

もっとちゃんと話をすればよかったね。

自分のことしか見えてなかった俺を、許せない?

キョーコちゃんが誰よりも好きだよ。

だから戻ってきて。

藁にもすがる思いで、ポケットからコーンを取り出して、彼女の手に握らせた。

「キョーコちゃんに笑顔がないから、コーンが心配してるよ?ほら、わかるかな?コーンはここにいるよ?」

微かに彼女の手が、手の中に握らされたものを確認するかのように動いた。

彼女が反応している?

「コーンがね、昨夜はキョーコちゃんと離れてたから寂しがってたよ。キョーコちゃんもコーンがいなくて寂しかった?今ここにコーンはいるから、もう寂しくないよね?戻っておいで、キョーコちゃん。コーンも待ってるよ」

記憶を失くした彼女が、たった一つ思い出した過去。

記憶を失くしても尚、彼女にとって大切なコーン。

コーンでも彼女を呼び戻せなかったら、どうすればいい?

無力な自分が情けなくなる。

ねぇ戻ってきて、キョーコちゃん。

もう一度、俺にチャンスを与えて?

キョーコちゃんを失いたくないんだ。

「コ…………ン……」

とても小さな呟きだったけど、確かに彼女の声が聞こえて、社長とマリアちゃんが息を呑んだのがわかった。

「コーンはここにいるよ、キョーコちゃん」

戻ってきて。

俺を受け入れて。

彼女は両手で確かめるように、コーンに触れた。

「コーン……」

今度ははっきりと、彼女の声が聞こえた。

心を閉ざしていた彼女が、コーンの名を呼び、涙を流した。

よかった……

彼女は戻ってきてくれる。

ポロポロと零れ落ちる彼女の涙をそっと拭って、肩を抱き寄せた。

彼女の頭に頬ずりして、コーンを握らせた彼女の手の上に、右手を重ねた。

しばらくそうしていると、彼女の手がゆっくりと持ち上がり、俺の腕を掴んだ。

びっくりして彼女を見つめると、彼女も俺を見て驚いていた。

「えっ……?敦賀さん?どうして……?」

彼女が呟いた。

「何もかも置いたまま戻ってこないから、心配したよ?」

戻ってきてくれたことが嬉しくて、彼女に微笑みかけたけど、彼女は俺の手を振り払おうと足掻いた。

「どうしてそんなに、優しいんですか……」

彼女は辛そうに顔を伏せた。

どうして俺を見てくれないの?

もう顔も見たくない?

「キョーコちゃんは俺の大事な人だから、当然でしょ?」

ここで彼女を逃がすわけにはいかない。

逃げられないように、しっかりと彼女の手を掴んだ。

「大事な人……?そんなこと言ったら、駄目ですよ。私のことなんて放っておいて、敦賀さんが、ホントに好きな人のところへ行って下さい」

どうして彼女以外に好きな人がいると思うんだ?

こみ上げる怒りを押し殺して、努めて優しく問いかけた。

「どうしてそんな風に思うの?」

彼女は俺の問いには答えなかった。

「私、知ってます。敦賀さんは優しいから、私に同情してくれただけだって。同情はいらないんです。敦賀さんのこの腕がどんなに欲しくても、すがるわけにはいかないんです。傍にいたらすがってしまうから、離れないと駄目なんです」

彼女が俺の腕を欲しいと言う。

彼女からの強烈な愛の告白に聞こえて、嬉しかった。

さっきの怒りが、嘘のように落ち着いてくる。

「すがっていいよ。いくらでも」

顔を伏せないで、俺を見て?

「嘘つかないでください」

俺の目を見ても、まだ嘘だと思うの?

「嘘じゃないよ」

「じゃあ……どうしてキスしてくれなかったんですか?」

思わず言葉に詰まってしまった。

ホントにキョーコちゃんが大切で、誰よりも好きだから触れてしまいたい。

もしもキョーコちゃんの願いをかなえた時、その先を我慢出来る自信はないんだ。

今のキョーコちゃんがそれでもいいと言っても、記憶が戻った時にどうなるのか……

以前よりも一途に俺を慕ってくれる彼女が嬉しい半面、彼女の記憶が戻る時がいつか来ると思うと、怖くてたまらない。

黙っていると、彼女が誤解してしまう……

「毎晩のように、記憶が戻ったキョーコちゃんに拒絶される夢を見てた。俺はキョーコちゃんが好きで触れたいと思ってる。でも、キョーコちゃんの記憶が戻ったら拒絶されるかもしれないって思うと、怖かった。だから、キョーコちゃんに触れるのを我慢してた」

「だから敦賀さん『そんなつもりじゃなかったんだ』とか『行かないで』とか魘されてたんですか?」

「え?俺そんなこと言ってたの?」

こういう時は、何て言えばいいんだ?

「だから私は……好きな人への言い訳だと思って……」

「それで俺がキョーコちゃんに同情してるだけだって思ったんだ」

彼女が誤解していた理由がわかって、ホッとした。

「敦賀さんはずっと一緒にいてくれるって言ってくれたけど、魘されてるのを聞いてたら、不安で不安でたまらなくて……だから……不安なんて吹き飛ばして欲しかったから……ぎゅ~ってしてもらうと、とっても安心出来るから……してもらいたくて……なのに……敦賀さんは余所余所しくて……」

うっかり手を出してしまいそうになって、慌てて彼女から離れたあの時のことなのか?

「俺が魘されてたから不安になったの?」

「それだけじゃなくて……だって……お仕事だってわかってても、他の人には神々しいぐらい甘やかな頬笑みを向けるのに、敦賀さんは、私からは目をそらしたり……」

見つめられるのは嬉しかった。

でも、彼女が無意識に俺を煽るから、理性が崩壊しないように耐えていたのに。

「演技だよ。恋人の演技の時は、いつも目の前にキョーコちゃんがいると思ってやってるんだよ」

「辛かったんです……」

目にいっぱい涙をためて、彼女が俺を見つめた。

ごめん。

俺のせいで、キョーコちゃんにも辛い思いをさせて。

「俺も不安になるよ。キョーコちゃんの記憶が戻ったら、「ずっと一緒にいたい」って言われたこともなかったことになるんじゃないかと、不安でたまらないよ」

いつかはこんな幸せな時間に、終わりが来ると思うと怖くて、辛くてたまらなかった。

情けないと思われたくなくて、言えなかった。

「どうして私の記憶が戻ると「ずっと一緒に」っていうのがなかったことになるんですか?」

思いがけない言葉に、彼女の涙も引っ込んだようだ。

「俺はキョーコちゃんが記憶をなくす前から好きだったのに、キョーコちゃんには俺の気持ちが届かなかったからね」

そう、お嫁にもらいたいぐらい好きだと告げても、まるで落し物でも拾ってもらったかのようなあっさりとした「ありがとうございます」という返事をされたことは、まだそんなに前の話じゃない。

「こんなに敦賀さんが好きなのに……記憶が戻ったからって、私が敦賀さんを拒絶するなんてあり得ません」

その言葉が本当だったら、どんなに嬉しいか。

「ホント?」

「私が保証します」

彼女は、まっすぐに俺の目を見つめた。

その言葉に、甘えてすがっても許される?

「俺がキョーコちゃん以外の人を好きだっていうのは誤解だから、戻ってきてくれる?」

すぐに頷いてもらえるかと思ったのに、少し躊躇っているようだったから不安になった。

「さっきの……ホントですか?」

「ん?」

さっきのが何を指しているかわからなかった。

「私の記憶がなくなる前から、私のことが好きだったって」

恥ずかしそうに目を伏せる彼女に、自然と顔が緩んでしまう。

「ホントだよ。記憶を失くす前も、今も、キョーコちゃんが好きだよ」

彼女は頬を染めて、潤んだ目で俺を見つめた。

「だから……俺のお嫁さんになってくれる?」

「お嫁……さん?」

キョトンとしている彼女に、どう思われてるのか不安になる。

「キョーコちゃんと結婚して家族になりたいんだ」

彼女は大きく目を見開いた。

「家族……?ホントに……?」

ポロポロと大粒の涙を流して、彼女が俺を見つめる。

「嬉しい……」

彼女が小さく呟いた。

「一人は寂しくて……嫌だったんです……ずっと家族が欲しかったんです。私にも家族が出来るんですね……」

「俺と家族になってくれるってことでいいのかな?」

彼女は何度も頷いた。

「敦賀さんと家族になりたいです」

幸せで涙がこぼれそうになった。

つづく

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