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君恋ふる9

キョーコ


ここに来れば何か思い出せるんじゃないかと思ったのに………

大事な彼女を悲しませてまで、仕事を始めたのに、確かに自分がここにいたという確信が持てなかった。

周囲の人はみんな優しくしてくれるのに、それでもここが自分の居場所だったとは思えなかった。

本当に私はずっとここにいたのかしら………

優しくされても、不安がぬぐえなかった。

自分が周囲の人に優しくされることに見合う人間だったのかもわからない。

「お姉さま」

そう私を呼んでくれる大事な人。

嫌がることなく、鬱陶しがることなく、何も知らないわからない私に、色々なことを教えてくれる人。

彼女の傍はゆったりとまどろんでいるときのように、心地いい。

彼女は本当の妹ではなく、ただ以前の私を実の姉のように慕っていただけらしいのに、なぜここまで私に親切にしてくれるんだろう。

記憶を取り戻すきっかけになればと言われて、以前私が出演したドラマのDVDを見せられた。

こんなにいじわるな役をしていたから、私の家族も現れないのだろうか。

それとも、ドラマで見たお父さんやお母さんって、私にはいないのだろうか。

優しい彼女は『パパ』の話をしてくれるけど、『ママ』の話は聞いたことがない。

だから私も聞かない。

そして自分のことも聞けない。

自分がどんな人間だったかわかもらなくて、私がここにいることで、優しくしてくれる人たちに迷惑がかかるかもしれないのに、本当にここにいてもいいのかしら………

私が考え込んでいると、いつも不安そうに私を見つめてくる彼女。

だから安心して欲しくて笑いかける。

私が微笑むと、彼女も微笑んでくれる。

それだけで幸せ。

「キョーコちゃん?」

不意に名前を呼ばれて振り向くと、彼女に『信頼してくださって大丈夫です』と紹介された人が立っていた。

「こんにちは、敦賀さん」

教えられていたように挨拶をした。

「こんなところで何をしてるの?」

素直に考え事をしていた内容を告げるのはためらわれた。

「何って………探検でしょうか?」

「宝物は見つかったかな?」

何かを探しに来たわけじゃなかったから返事に詰まってしまった。

ぼんやりとあたりを見回すと、空に七色の橋がかかっていた。

「きれい………」

「あの虹が宝物ってところかな?」

あれが虹………

「そうかもしれませんね」

とってもきれいで、見れたことが嬉しかった。

ここに彼女がいたらよかったのに………

「あの向こうに、妖精の国があるのかな?」

思いがけない言葉が聞こえてきて、思わずじっと顔を見つめてしまった。

「妖精の国?」

「記憶を無くす前のキョーコちゃんならそう言いそうかなって」

妖精の話だなんて、彼女ともしたことがなかったのに………

記憶を無くす前の私は、この人とそんな話をしていたの?

どうしてそんな話をしていたのかしら………

でも、もしもほんとに妖精の国があるのなら………

「そこへ行けたら、こんな感情もなくなるのかな………」

「ねぇ、キョーコちゃん。辛い時は我慢しないで泣いていいんだよ?辛い時は辛いって言っていいんだよ?少なくとも、マリアちゃんも、琴南さんも、社さんも、椹さんも、俺も、そんな君を見たからって嫌がったりしないよ?」

その言葉はまるで乾いた土に染み込む水のように私の中に染みてきた。

我慢しなくていい………

自分がどんな人間だったかのかもわからないの。

呼ばれている名前が、本当に自分の名前なのかもわからないの。

だからとっても不安で、でも優しくしてくれる人に心配かけたくなくて笑うの。

本当は笑っていられないぐらい不安なの。

ほんとに、我慢しなくていいの?

涙があふれて、視界がぼやけてきた。

気がつけばそっと抱きしめられていて、その腕の温かさと心地よさに浸りながら泣いていた。

涙が落ち着くまでずっと抱きしめて髪をなでてもらっていた。

私………この腕の温かさを知っている………

それがすごく安心出来て、ここにいてもいいんだって何故だかそう思えた。



「すみません」

涙が止まると、恥ずかしくてたまらなくなった。

「謝ることはないよ。俺のハンカチでよかったらいつでも貸してあげるからね?」

優しく微笑んで言ってもらったけど、心地いいと思ったことを見透かされていたようで余計に恥ずかしくなって、熱くなった頬を押えて走り出してしまった。

ど、ど、どうしよう………

思わず逃げ出しちゃった。

でも、敦賀さんの腕の中は温かくて、安心出来て、心地よかった………

あんなに不安だったのに、不思議………今は心が軽くなってる。

敦賀さんって、おとぎ話の魔法使いみたい。

でも………あんな風に逃げ出しちゃったから、怒ってらっしゃるんじゃないかしら。

あぁ…どうしよう………

8へ   つづく

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